EP.1「二人の星詠み師」


白い、洋風の、木製の、扉。
いつの間にか、本当にいつの間にか、その前に立っていた。

いつものカバンはなく、財布やスマホすらなく、ただ手には1通の手紙が握られていた。

ここは、どこだろうか。
何故ここにいるのだろうか。
今まで何をしていたのだろうか。

浮いては沈んでいく疑問、けれど自然と手は扉の取っ手を掴み始めた。

Nihil verum, omnia licita.


ちょうど目線の高さにある扉にそう書いてあった。

何語だろうか、そんなことをぼぅっと考えている間に扉が開ききった。

アヤさん「お、来なすったね」


中には一人の、中国風な、占い師のような格好をした男がいた。

アヤさん「さ、そのまま中に入りなされ。おいざっき、お客さんだ」


ざきさん「おいーす!どーも、どーも、おはこんにちばんわー!! ささささ!どーぞ、どーぞ中に!」


占い師のような人に呼び出され、奥から違う男性がテンション高めで出てきた。 

まるで、カフェかバーのマスターのような格好をしている。

アヤさん「やかましい」


ざきさん「いったぁ!」


どうやら力関係は占い師の方が上のようだ。

アヤさん「すまんねえ、お客が来ると謎テンションで騒ぐ男でね。まぁ、悪気はないんだが」


ざきさん「そらそうよ!! 元気が!あれば!何でも!」


アヤさん「やかましいわ。はよ、茶の用意をせい」


ざきさん「ほいほ~い」


アヤさん「お客さんはどうぞこちらに。何しろこれから長丁場になるのでな。立ったままでは疲れるだろうよ」


占い師が手のひらで椅子を指し示す。
ここはどこだろうと思いながら、おずおずとその椅子に腰かける。

アヤさん「じゃあ、まずは招待状を拝見しようか。どうせ送りつけたのはアイツだろうけどねぇ」


ざきさん「常識的に考えてあいつしかいねぇな!!」


アヤさん「はいはい、そうだな。で、ざっき、茶はどうした?」


ざきさん「お茶っ葉どこに置いたっけか?」


アヤさん「………。とりあえず招待状を」


ため息をつく占い師に促され、持っていた手紙…恐らく招待状を差し出す。

すると占い師はやっぱりなと笑い、マスターもだよなと笑い始めた。

アヤさん「それじゃ、ここの説明から始めるかい。おい、ざっき」


ざきさん「あいよー。お客さん、『月詠ミコト』って知ってるかい?」


つくよみ、みこと。
知らない。誰だろうか。

ざきさん「まぁ、知る必要があるやつだけがアイツを知っている、みたいな不思議な存在だかんね。知らなくてもしゃーない」


アヤさん「これがまた酔狂なヤツでな。クリエイターの集まりである月光ギルドの団長を名乗っておる。頭の中で年がら年中『わるだくみ』を練っては、日々『きょうはんしゃ』を探しておるよ」


ざきさん「で、その月詠ミコトが新たなわるだみとして『星詠み亭・エピカ』ってのを始めたんだ。簡単に言うと、星詠みの話と旨い料理が楽しめるイベントだな」


アヤさん「面白半分と楽しさ半分で作られた酔狂な世界よ。俺たちが星詠みの話をし、その後、料理人が作った馳走を頂く。少なくとも?飲み物は?『すぐに』出てくる」


ざきさん「悪いって…。んで、ここはその『星詠み亭・エピカ』の…出張所みたいなもんかね? 面白半分、楽しさ半分、そして」


アヤさん「山盛りの宣伝意図で創られた世界よ。あいつも次から次に酔狂なことを考えおる」


ざきさん「ってことだ。月光ギルドがあって、団長の月詠ミコトってヤツがいて、『星詠み亭・エピカ』ってイベントが始まり、この場所がある。ここまでOK?」


突然さらさらと情報を流されるが、何となくは、分かった気がする。

アヤさん「良し。では、先程「長丁場になると」言った、その意味を説明せねばなるまい」


ざきさん「ぶっちゃけ、これからあなたには俺たちの星詠みの話を聞いてもらうよ。星座の話、惑星の話、宇宙の話、色々と」


…ちょっと待った。
何故、いきなりそうなるのだろうか。

アヤさん「理由は気になるだろうが…そうだね、俺の『見立て』だとそういうことになっている、今はそれが理由としか言いようがない」


ざきさん「今、理由を詳しく話しても分かんねぇだろうからな。もちろん、聞き流してもらってもOKよ」


アヤさん「ただ、それに関わらず俺たちは話し続ける。いつまでも、どこまでも、『その時』が来るまで俺たちは語り続ける」


ざきさん「俺らは蠍座だからねぇ、しつこいよ~?」


二人の男性は含み笑いをしながら、しかしその瞳の奥には…何か不思議な意志が宿っているような気がした。

アヤさん「それに、ハッキリと言うが、今すぐに帰って成さねばならぬ用事などないのだろう? それどころか…自分の名前は分かるのかい?」


………あれ?出てこない。
どうしてだろう、口を開くが、自分の、自分だけが持つはずの名前が出てこない。

ざきさん「生年月日とかは?出身地、親、兄妹、友達、学校や職場は?」


………。
やはり、出てこない。

アヤさん「ならば、ここでゆっくりしていくが良い。思い出すまでな」


ざきさん「そー!そー!この夜見ノ世界は不思議な世界だからな、歳は取らねぇ、腹は減らねぇ、喉も渇かねぇ。ついでに朝だってやってこねえ!!」


そう言って、二人はまた笑う。
人を食ったような人とは、こんな人たちを言うのかも知らない。

アヤさん「さて、申し遅れた。俺は水月理仁(みづき あやひと)と言う。見ての通り易者、つまりは占い師だ。アヤさんとでも呼んでくれれば良い」


ざきさん「俺はざっき。ざっきでもざきさんでも、何でも呼んでくれ!星詠み師としての経験はアヤほどないが、それなりにはできるぜ!」


アヤさん「見かけはバーかカフェのマスターの様だが、茶も淹れられんとはな。人は見かけによらんな」


ざきさん「さっきから引き摺りすぎだろ!!お前だってその格好と喋り方うさんくさいわ!」


アヤさん「んだと、テメェ、叩き斬られてぇのか?!」


ざきさん「あぁん? 上等だこらぁ!!」


そう言い合うと、占い師のアヤさんは日本刀を、マスターのざきさんは拳銃のようなものを互いに突きつけあった。

いったいどこから出したというのだろう…。

まだ二人については説明されていない部分も多い様だ。

アヤさん「…ちっ。客の前だ、今日は勘弁してやる」


ざきさん「仕方ねぇな」


客がいなかったら一体どうなっていたのだろうか。

アヤさん「…あー、えっと…コホン。見苦しいところをお見せしたな」


ざきさん「まぁ、俺たちの事は追々分かるだろうから、その時にでも」


アヤさん「そうだな。茶番はここまでにして、そろそろ話を次に進めようか」


ざきさん「だな。星詠みの話をするに当たって、いきなり星座だの惑星だの言われても分からないだろうから」


アヤさん「星詠み、つまり星占いとは何かという話をしたい」


話がどんどんと進んでいく。

そのスピードと強引さに、困惑するが…少しだけ、少しだけ話を聞いてみようと思い始めている自分もいた。

アヤさん「とりあえず、まずは落ち着くために茶でも用意するかな。おい、ざっき」


ざきさん「んじゃあ、俺はコーヒーブラックで」


アヤさん「お前が淹れるんだよ!!」


ざきさん「あいたぁ!」


占い師に叩かれ、渋々茶の準備を始めるざきさん。やはり不安だ。


これから一体、どんな話が聞けるというのだろうか?


次回「星占いってなぁに?」


月光ギルド

-公式情報局-

0コメント

  • 1000 / 1000