えーと、もう一度いいですか?
アヤさん「おや、聞こえんかったかの?お前は地球という星で生まれて」
ざきさん「人生という修行を一回終えてだな」
アヤさん「天に還り」
ざきさん「んでもう一度修行しに地球に生まれようとしている」
アヤさん「魂だよ」
………あー、えーっと、で、ここは?
ざきさん「もう一度生まれる前に」
アヤさん「今度はどんなことを体験しようか決めるために」
ざきさん「前もって地球にどんな人たちが住んでたか復習しようって場所」
…あのー…お話が突然オカルトになって正直全く全然さっぱりついていけないのですが
アヤさん「さようか。まぁ、この話も信じる信じないはお前さん次第だの」
またそれですか。
ざきさん「いや、それ以外に言うことねーからなぁ」
…魂ってことは、1度死んでるんですか?
アヤさん「うむ、死んでおるよ」
…どういう、人生だったんでしょう?
ざきさん「さぁてなぁ。俺たちは神様じゃねえからな。そこまでは知らんよ」
アヤさん「1度修行を終えた魂は、それまでの一切を忘れることになっておる」
ざきさん「じゃねぇと、生まれ直した時に『あっ!前世で自分に意地悪した人だ!』なんてことになっちまう」
アヤさん「そうなると、いつまで経っても同じことを繰り返す堂々巡りになるからの」
ざきさん「だから、自分が何者なのか分からないってのは当たり前の話だな。もう全部忘れちゃったんだから」
アヤさん「これまでのお前さんの発言に、私だの僕だのという一人称がないのもそういうことだ。口調だって男とも女とも取れるしな」
あぁ。なるほど。
…でも、何も覚えていないのは、少し寂しい気がする。
アヤさん「恋人や朋友のことを覚えていたい気持ちはわからんでもないがな………さて、ではこれより、卒業試験を始める」
ざきさん「いつもながら唐突だなぁおい。あ、筆記用具はいらんぞ」
卒業、試験?
アヤさん「うむ。課題は、これまで説明した12星座をお主の言葉で説明してみろ」
ざきさん「どれだけお勉強できたか試させてもらおうじゃん」
二人とも、意地の悪そうな顔をして…
分かりました。
アヤさん「それではまず、牡羊座は?」
エレメントは火で、活動宮。
例えるなら赤ちゃん。
純真で、無垢で、自分のことを認めてもらいたい。少しそそっかしいけど、それが魅力。
ざきさん「じゃあ牡牛座は?」
エレメントは地で、不動宮。
ハイハイを始めた子供。
のんびり屋さんでマイペース。安心できる場所にいたくて、それを全身で味わえて、穏やかさをまとってる。
アヤさん「では双子座は?」
風と柔軟宮。
立って歩き始めた子供。
色んなものに興味があって、時に周囲がびっくりするような発見をする。いつも軽やかでのびのびとしてる。
ざきさん「ん、蟹座」
水の活動宮。
立って歩いて、世界を認識し始めた子供。
自分が守りたいと思ったものは絶対に守る。その殻の中に大切なものを入れて愛情という水をあげる。
アヤさん「ふむ、獅子座は?」
火の不動宮。
おしゃれを覚え始めた中学生かな。
目立つのも特別扱いされるのも大好き。でも、だからといって偉そうにしたいんじゃなくて、自分の輝きで人を照らしたい。
ざきさん「乙女座は?」
地の柔軟宮。
自分の行く末を考え始めた高校生。
ロマンと現実が両立できる人。とても繊細で傷つくこともあるけど、でも答えを出すことからは絶対に逃げない。
アヤさん「天秤座」
風と活動宮。
世界と対峙し始めた大人。
全体のバランスを見て、調和を取ろうとする。正しい間違いではなく、美しさで物事を整えていく。
ざきさん「蠍座ー」
水と不動宮。
一生添い遂げることを決めた婚約者。
何かと溶け合うような関係を望み、1度そうしたら裏切らない。
アヤさん「射手座」
火と柔軟宮。
絶えず何かを追い求めていく冒険家。
自由を愛し知識を愛し、風を切って世界へ飛び込んでいく。
山羊座は地と活動宮。
古城を受け継いでいく野心家。
責任感があり、それでいて純粋な感覚を持ち、自分の身の回りを守っていく。
水瓶座は風と不動宮。
途方もない世界を描く理想家。
誰もが当たり前だと思っている常識を軽々と飛び越えて、その向こうへ飛び立つ。
そして、魚座は水と柔軟宮。
純白の澄み渡った魂。
境界を越え、ただあるがままを見つめ、支配することもされることもない。
ざきさん「ばっちりだな。これなら何も言うことはねぇ」
あの、ちょっと、今感じたことを話して良いですか?
アヤさん「ほぅ、なんじゃい」
………これまでの話を信じます。
もちろん、本当は嘘なのかも知れない。
けれど、信じます。
アヤさん「ほほぅ、興味深い。…その胸の内を聞いても良いか?」
…まず、最初のオカルトのような話。魂とかそういう話。
これが嘘か本当かは分からない。
ざきさん「あぁ、そうだな」
これから本当に地球に生まれ直すのかどうかも、本当のところは分からない。
アヤさん「うむ、そうだ」
でも、今までの話を全て、全て信じるのなら、
これから行く地球には先言ったような人たちがたくさんいるんですよね?
ざきさん「そうなるな」
そして、先言ったのは太陽星座と言われるものだけの話。
月星座や他の惑星の星座も含むと、例えば同じ牡羊座でも、色んな牡羊座がいるんですよね?
アヤさん「そらそうさ。突撃ばかりの牡羊座、怖がりの牡羊座、考え込む牡羊座、色んなのがいる。もちろん、牡羊座だけじゃない」
なら、信じます。
地球には、世界には数えきれないくらい素敵な人たちがいるんだって。
ざきさん「素敵なだけじゃねぇかも知れねぇぞ。アンタに意地悪するヤツ、邪魔をするヤツ、否定するヤツ、危害を与えるヤツだっているかもしれねぇ」
それは、ちょっと困るのは確か。
………でも
アヤさん「でも?」
優しい人、暖かい人だって、同じくらい存在するんじゃないですか?
アヤさん「………あぁ、そうだ。全くもってその通りだ」
なら、僕は/私は、世界は無限大の可能性に満ちているという思いを選びます。
そのために、信じます。
ざきさん「ハッ!もう何も言うことねぇや」
アヤさん「………良い。なれば、扉を開けよう」
一瞬。
アヤさんがそう言うと、これまでの風景が一変した。
喫茶店のようだった光景は、暗い、漆黒の、しかし点の光で溢れる光景に変わった。
ざきさん「ここは誰もが見上げた青空の向こう、そこに輝くは生命の灯火、ってな。あの青い、丸い光が見えるか?このまま、まっすぐと進め。そうすりゃ、地球だ」
アヤさん「この光景だからの。時にどこへ進んでいるのか、このままで良いのか迷うかもしれんの」
ざきさん「そんな時はよ、星の光に従って進め。着くべき所に着くさ」
どの光に従えば?…と言ったら、自分で決めろって言うんでしょうね?
アヤさん「おう、物覚えがいいな」
ざきさん「ここんところ、それしか言ってねぇがな」
…あの、今までありがとうございました。
ざきさん「はっは、何を言い出すかと思えば!礼を言われるようなことはしてねぇよ」
アヤさん「うむ。これがワシらの役目だからの。もうこれが何回目かも分からん」
ざきさん「何千何億回目なのか」
アヤさん「それとも、もしかしたらこれが初めてなのか。そんなことを思うくらいに、感覚がおかしくなってしまったよ」
これからも、ずっとここで?
ざきさん「あぁ、たぶんな。そんな気がするわ」
アヤさん「いつ終わるのか、いつ休めるのか、それは分からん。だが、その時が来るまでやり続けるまでよ」
…分かりました。
とても、とても楽しかったです。本当にありがとうございました。
アヤさん「うむ。恐らく生まれる頃にはここでのことも忘れるようになっておる」
ざきさん「だけどまぁ、何かしら縁があったら思い出すなりなんなりするかもな」
アヤさん「そうだな。では、達者でやれよ」
ざきさん「風邪引くなよ」
…はい。また、いつか。いつの日か
そう言って僕は/私は進みだした。
歩んでいるのか滑っているのか、不思議な感覚。
…これから、どんなことが待っているのだろうか。
いや、きっとそれは、自分で決められるんだ。
どんな道を歩いていくのか、
何を見ていくのか、
全部自分で決められるんだ。
何をしよう。
何を見よう。
何を聞こう。
何を嗅ごう。
何を食べよう。
何に触れよう。
そう、思っているうちに、ふと思い出した。
Nihil verum, omnia licita.
あの場所の扉に刻まれていた言葉。今なら意味が分かる。
この世に真実はなく、許されぬことはない。
…そうか。そうだったんだ
途端に足下の方へ吸い込まれる感覚がした。
あぁ、いよいよだ。
そう思って、ふいに上を見上げた。
漆黒の空間と、無数の星と…幾筋かの流星が見えた
――――--------
アヤさん「あー、終わったかー疲れたのー」
ざきさん「お疲れ〜。いやもう、マジでなん回目だよって話だよなー」
アヤさん「お前さんもお疲れさん。長かったであろうここまで」
ざきさん「ほんとになぁ。特に今回は長くて疲れたんじゃないか?」
アヤさん「いや、本当にな。まぁとりあえずこの場は最後だから見逃してくれ」
ざきさん「ま、何はともあれお付き合い頂いてありがとうよ!」
アヤさん「…」
ざきさん「…」
アヤさん「……」
ざきさん「……」
アヤさん「………いやいや、お前さんだよお前さん、起きてっかー?」
ざきさん「おう、ずっとこのエピカでのやり取りを」
アヤさん「スマホだの」
ざきさん「パソコンだの」
アヤさん「そんな文明の利器で見てたお前さんだよ」
ざきさん「俺、何回か『そこの君も考えてみよう』とか言って語りかけてたよな?...ありゃ?もしかして気づいてなかった?」
アヤさん「それともあれか?先ほどまでの客人が実は読者なんだ、とかいうありきたりなメタ視点で読んでおったか?」
ざきさん「いやいや、先までのお客さんとアンタは明らかに別の存在だろ」
アヤさん「全くもってその通りだな。ま、何はともあれお付き合い頂いて感謝する」
ざきさん「無事にこれで一周終わりっと。あー何かラーメン食いたくなってきた」
アヤさん「お前はそればっかりだな。さて、これまでの話はいかがだったろうか?」
ざきさん「っつても、言うことは先までと同じ。ここで語ったことは嘘かもしれないし本当かもしれない」
アヤさん「うむ。そもそも、この場所が、魂が立ち寄る場所だというのも定かではない」
ざきさん「そもそも人って生まれ変わるかどうかも確かな話じゃねぇな」
アヤさん「ただの読み物、ただの設定だという可能性も十分にある」
ざきさん「なにしろ、今あんたが見てるのは一定の法則に従って黒い線で形作られた文字って情報媒体だし」
アヤさん「電子機器で見ている以上、それはただの0と1の集合体だ。現実だ、本当のことだとは断言できんな」
ざきさん「だからよ、ここで俺たちが話したことは、それが本当か嘘かはあんたが決めてくれ」
アヤさん「先ほどの客人は自分で選んだ。世界は無限の可能性に満ちているのだとな。だから俺たちの話を信じるということを選んだ」
ざきさん「なら、あんたはあんたの理由で、思いで決めてくれ」
アヤさん「信じるもよし、信じぬもよし。しかしワシらが言うこと語ることに変更はない」
ざきさん「あー、ただな、もし迷ったりとか自分のことが分からなくなったら、またここに来て読み返してくれ」
アヤさん「電子の海というのは便利なものでなぁ。情報を保存することもアクセスすることも簡単だ」
ざきさん「いつでも、あんたが読みたい箇所を読めるからな」
アヤさん「おっと、そろそろ次の客人が来る頃かの。準備をせねば」
ざきさん「あー、もう、なにをどの順番で話すのか忘れちまったよ」
アヤさん「最初は意気揚々と喋っておったが、段々と飽きてしまうからのぉ。茶番だの少し意地悪なことを言うだのして変化を起こしてみたは良いものの」
ざきさん「そろそろネタ出尽くしたからな」
アヤさん「まぁ、なんとかなるだろう」
ざきさん「それもそだな」
アヤさん「ん、あぁ、そうだお前さん。先の客人に伝え忘れたことがあった」
ざきさん「あーっ、あれか。やっぱ何回もやってるとどこかで抜け漏れあるなぁ」
アヤさん「仕方ない。ワシら飽きっぽいからの。ともかく、もしかするとお前さんはそちらの世界で先ほどの魂と出会うかもしれん」
ざきさん「そうしたら伝えてほしいんだよ。真実はない、正解は無いって言っておきながら、実は世界には1個だけ正解があるんだってな」
アヤさん「そう、それ即ち、『生きる』ということだ」
ざきさん「現実世界ってのはこれ以上なく合理的だ」
アヤさん「適したものが生き残り、適さないものは消えていく」
ざきさん「その環境に適合できたモノだけが生き残る」
アヤさん「ある環境に適合できそうにないなら、そこから逃げろ」
ざきさん「逃げろ逃げろ、全力で逃げろ」
アヤさん「そして、世界は可能性に満ちていると言うのなら」
ざきさん「自分が笑って生きていける可能性を諦めるな」
アヤさん「自分が笑って生きていける居場所があると信じ続けろ」
ざきさん「…こんなとこかね」
アヤさん「うむ、これでもう言うことはあるまいて」
ざきさん「そんじゃ、次のお客さん迎えるとしますか」
アヤさん「うむ。これを見ているお前さんも、またいつでも来ると良い」
ざきさん「言うことは変わらねぇんだけどな!」
アヤさん「はっはっ。しかし、喉が乾いたの。茶が呑みたい」
ざきさん「はーい、お茶一杯いただきましたぁ!た、だ、し?当店はセルフサービスになっておりまーす」
アヤさん「いい加減茶ぐらい上手く淹れろ!」
ざきさん「めんどくせぇ」
アヤさん「この偽物マスターめが!」
ざきさん「うるせぇ!やんのかこら!胡散臭ぇ占い師よォ!」
アヤさん「なんだと、この………ん?」
お、来なすったね。
次回EP.1「二人の星詠み師」
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